ゲイが行く浅草(前編)
ここは京都嵐山は渡月橋
修学旅行の自由時間に呼び出された私は
なんとなく何をされるか分かっているけど、
あえて知らないふりして幼なじみの彼の元へ行く
夕日をバックに「お前が好きだ」なんて言われる。
…今は叶わぬ憧れの修学旅行のシチュエーションである。
高校生が主人公のBLを読むとだいたい修学旅行のシーンがある
私ももちろんも東京横浜や沖縄などそれなりに定番コースを行った
当然のごとく何もなく、これといった思い出もない
しかし、自分がゲイということを自覚した今、
BLフィルターを通してみると少しでも甘酸っぱさのようなものを味わいたいという思いが出てきた。
30を目前にして修学旅行の定番行き先というのが途端に輝かしく見えてきたのだ
本当は京都に行きたかった、でも休みは一日だけ
それならせめて鎌倉に、しかし早起きができなかった
最終的に下町から近場の浅草にすることにした。
失った青春へのリベンジである。
浅草には中学の修学旅行で来た。
思い出といえばせんべいを食べていたら凶暴な鳩に襲われたというロマンチックの欠片もない思い出しかない。
正直今更浅草に目新しさはない
下町で生活を始めてからは買い物などで割とくるようになった、しかし雷門を眺めたり浅草寺に行くことは久しぶりだ。
もしかしたら気が付かないところで何か青春が落ちているかもしれない
10月某日、天気も悪く気圧で頭が痛い、
旅としては最悪のシチュエーションだ
下町北千住駅から東武スカイツリーラインで浅草に向かう、
主婦と思われる客層を多く乗せる昼下がりの下町の電車は惣菜のコロッケの匂いがした。
よく浅草へ向かうこの路線の名称は東武鉄道伊勢崎線を名乗るのかスカイツリーラインを名乗るのか話題なる、
個人的にはスカイツリーラインに名称が変わったあとの住民なので古参ぶるのも変と思いスカイツリーラインと言うことにしている。
修学旅行で訪れたとき、スカイツリーは影も形もなかったことを考えると学生時代が遥か遠くになったことを感じられる。
私はアラサーなのだ。
今や慣れてしまったが東武浅草駅は先頭数車両の電車しかホームに出れない。
後部車両に座っていた私はシルバーセンターから派遣されたと思われる年配の男性促されてホームに近い車輌からホームに降ろされる。
浅草駅は外国人需要もあってか綺麗になっているがどこか古さのあるいわゆる「浅草らしさ」が詰まっている。
私は東武浅草のそんな駅舎が好きだ。
浅草に来た、情緒を感じさせてくれて
どこか下町のエネルギーを得られるような感じがするのだ
浅草に行くと毎度行くお店がある
浅草らしい古風の喫茶店風のお店で訪れるたびにどこか懐かしい味を出してくれる。
それを楽しみに雨で水の滴る雷門通りのガードレールを歩く
…がなんと店は定休日でやっていなかった。
出鼻をくじかれるとはまさにこのことである。
隅田川から流れ込む少し冷えた秋口の風が一層冷たく感じた
つづく